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横浜地方裁判所 昭和52年(ヨ)851号 決定

債権者 新井田円二

右代理人弁護士 斎藤浩二

同 太田宗男

債務者 寺尾二郎

右代理人弁護士 澤野順彦

主文

1  債務者は、別紙物件目録記載一、二の土地の境界(別紙図面(一)赤線部分)に設置すべき別紙図面(二)記載の擁壁について、本決定送達の日の翌日から五日以内に建築基準法六条に基づく確認申請手続をなし、その確認があったときはその翌日から五〇日以内に右擁壁の設置工事を完成しなければならない。

2  債務者が右期間内に完成しないときは、債権者は、債務者の費用で自ら前項記載の擁壁を設置し又はその指定する者をして右の擁壁を設置させることができる。この場合債務者は、債権者又はその指定する者が右の擁壁設置に関し別紙物件目録記載二の土地内に立入ることを拒否するなどしてその工事を妨害してはならない。

理由

一  債権者代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由を大要次のとおり述べた。

1  債権者は、昭和三五年一月二二日石井孝三郎から別紙物件目録記載一の土地(以下甲地という)を買受け、同地上に二棟の建物を所有している。

2  債務者は、昭和三五年九月一七日、甲地に南接する傾斜地である別紙物件目録記載二の土地(以下乙地という)を買受け、翌三六年二月別紙図面(三)表示の赤線のとおり宅地造成し、更に昭和四八年同図面表示の青線まで削り取って整地した。

その結果、甲乙両地間に、境界に沿って高さが境界北西部分において四・六メートル、南東部分において三・六メートルの断崖(以下本件崖という)を生じ、土質の関係上甲地が崩壊の危険に曝されている。

3  甲乙両地一帯は、いわゆる関東ローム層の崩壊しやすい土地であり、昭和三七年七月二七日宅地造成等規制法三条に基づいて宅地造成工事規制区域に指定されている。しかのみならず、本件崖について横浜市長は、昭和五〇年八月二三日付書面をもって債務者に対し、同法所定の技術的基準に適合する擁護壁(別紙図面(二)表示の擁壁はこの基準に沿うものである)設置等の補強措置を勧告している。

4  債権者が設置を求める擁壁は、高さが二メートルを超えるものであって、建築基準法施行令一三八条一項五号に該当するから、同法八八条一項、六条により確認申請を義務付けられている。

5  債権者は、債務者が前記勧告に応じないため、同人に対し所有物妨害予防請求権に基づいて別紙図面(二)表示の擁壁設置を訴求すべく準備中であるが、本件崖の上層部の土砂が次第に流失し、同所付近の生垣が乙地に傾斜している現状では、人命にもかかわり確定判決を待つ余裕がない。

二  よって判断するに、一件記録及び審尋の全趣旨によれば次の各事実が疎明される。

1  債権者は甲地を、債務者は乙地をそれぞれ所有し、甲乙両地は債権者が主張するようにほぼ垂直の本件崖を境に約一六メートルにわたって南北に隣接している。

2  本件崖は、債務者が債権者主張のように二度にわたって傾斜地の山林であった乙地を切りくずして宅地に造成したため生じたものである。

3  甲乙両地一帯は、関東ローム層の、雨に脆く崩壊しやすい土質であって、昭和三七年七月二七日宅地造成等規制法三条に基づき宅地造成工事規制区域に指定された。

4  横浜市は、債権者の陳情に基づいて昭和五〇年七月二九日本件崖の地質及び崩壊の危険性を調査したうえ、債務者に対し、同年八月二三日及び昭和五三年三月九日の二度にわたって宅地造成等規制法一五条二項所定の勧告をした。その勧告の内容はいずれも本件崖について同法所定の技術的基準に適合する擁護壁の設置等の補強措置を講ずることとするものであった。

5  債権者の居宅のうち一棟は境界より三・四メートルないし三・八メートルの距離に建っている。

以上の各事実が疎明され、また、本件崖の上層部の土が流失し、境界付近の甲地の地盤が相当脆弱であることは、当裁判所が現地にて和解を勧告した際明らかであって、これらの事実を総合すると、甲地の崩壊及び地上建物の倒壊の危険があり、即刻補強して甲地の崩壊を防止し、人命、財産の毀損を避ける必要があるというべきである。

そして、右崖の補強には、前記土質、宅地造成工事規制区域の指定、横浜市の勧告、更には、《証拠省略》によって認められる「横浜市の宅地造成工事における切盛土擁壁の設計施行の基準」に照らし、別紙図面(二)表示の擁壁の設置が必要であると認めるのが相当である。

6  なお、前項の擁壁の設置については、その高さが二メートル以上であるから建築基準法六条、八八条一項、同法施行令一三八条一項五号により確認手続を経る必要があることは債権者主張のとおりである。

三  よって、本件申請は理由があるから、債権者に保証として二〇〇万円を供託させてこれを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 金野俊男)

〈以下省略〉

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